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札幌地方裁判所 昭和46年(ワ)3166号 判決 1972年1月28日

原告

東邦交通運送株式会社

被告

株式会社山一寺尾商店

ほか一名

主文

一  被告沢木金作は原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四六年六月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社山一寺尾商店に対する請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告沢木金作との間に生じたものは、被告沢木金作の負担とし、原告と被告株式会社山一寺尾商店との間に生じたものは原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは各自原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四六年六月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

(被告株式会社山一寺尾商店)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(被告沢木金作)

原告の請求を棄却する、との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告は、次の交通事故(以下、「本件事故」という。)によつて、その所有に属する大型貨物自動車を損壊された。

(1)  発生時 昭和四六年六月五日午後四時三〇分ころ

(2)  発生地 江別市大川町一八番地、国道一二号線路上(以下、「本件道路」という。)

(3)  加害車 大型貨物自動車(北一は六三一五号)

運転者 訴外橋本憲二(以下、「訴外橋本」という。)

(4)  被害車 大型貨物自動車(札一い五七八九号)

運転者 訴外小島健治

(5)  態様 訴外橋本は、加害車を運転して本件道路を岩見沢方向から札幌方向に向つて進行中、本件事故現場がカーブになつているのにこれを曲らず直進したため、訴外小島健治が運転して対進してきた被害車に加害車を衝突させた。

二  (責任原因)

被告株式会社山一寺尾商店(以下、「被告会社」という。)は海産物の加工販売を業とする会社であり、被告沢木金作(以下、「被告沢木」という。)は加害車を所有し、訴外橋本を雇用して、運送業を営むものであつて、被告会社は従前より自己の貨物を専属的かつ継続的に被告沢木に運搬させていたものであるところ、本件事故発生時においても、訴外橋本は被告沢木および被告会社の指揮監督のもとに被告沢木の業務として被告会社の貨物を運搬していたものであり、本件事故は右橋本が本件道路が左側にカーブしているのに運転操作を誤まつて直進し、被害車の進行していた対向車線に突入した過失に起因するものであるから、被告らはいずれも民法七一五条により原告の被つた後記の損害を賠償する責任があるものである。

三  (損害)

本件事故により原告所有の前記被害車は大破するところとなり、原告は、その修理代として一、四七三、八六三円を支出し、同額の損害を被つた。

四  (結論)

よつて、原告は、被告らに対し、損害賠償金として右一、四七三、八六三円の内金一〇〇万円とこれに対する本件事故の日である昭和四六年六月五日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因に対する答弁

(被告会社)

一  請求原因第一項(事故の発生)中、(1)ないし(4)の事実は認めるが、(5)の事実は知らない。

二  同第二項(責任原因)中、被告会社が海産物加工販売業を営むこと、被告沢木が加害車を所有し、訴外橋本を雇用して運送業を営むものであること、本件事故発生時に訴外橋本は被告沢木の業務として被告会社の貨物を運搬していたことは認めるが、被告会社が従前より自己の貨物を専属的かつ継続的に被告沢木に運搬させていたこと、被告沢木あるいは訴外橋本が本件事故当時被告会社の指揮監督のもとにあつたとの主張は否認する。また、本件事故が訴外橋本の原告主張のような過失に起因するものであるとの主張は知らない。

三  同第三項(損害)の事実は否認する。

(被告沢木)

一  請求原因第一項(事故の発生)の事実はすべて認める。

二  同第二項(責任原因)につき、被告沢木が訴外橋本を使用し、同訴外人が同被告の業務を執行中に原告主張のような過失によつて本件事故を発生させたものであることを認める。

三  同第三項(損害)中、本件事故によつて被害車が損壊したことは認めるが、その修理のために原告が支出した修理代が原告主張のとおりであることは否認する。

第五証拠関係〔略〕

理由

第一被告会社に対する請求について

被告会社が海産物の加工販売を業とする会社であること、被告沢木が加害車を所有し、訴外橋本を使用して運送業を営むものであること、本件事故発生時には訴外橋本は被告沢木の業務として被告会社の貨物を運搬していたものであること、以上の事実はいずれも当事者間に争いのないところである。

そして、〔証拠略〕を総合すると、次のような事実を認めることができる。

(1)  被告沢木は、自動車運送事業の免許を持つものではないが、昭和四〇年前後より貨物自動車を所有し、紋別港に漁船が入港するたびに同港に赴き、海産物販売業者からの委託を受けて海産物を運送することを主たる業態とする自動車運送事業を営んでいたものである。ときとして同被告自らが海産物を買い入れ、市場などに運搬して転売することもあつたが、その業務の中心は右のような運送事業であつた。そして、右のとおり、本件事故当時には、加害車を所有し、訴外橋本を運転手として雇用して、右業務にあたらせていたものである。

紋別港には右のようないわゆる「白ナンバー」の運送事業を営むものは被告沢木ひとりにかぎらず相当多数いて、漁船が入港するやこれら運送業者はいつせいに同港に待機し、海産物販売業者よりの運送の申込を受けるのであつて、貨物の種類、荷量あるいは行先などに応じて、一人あるいは数人の委託者よりの貨物を単独あるいは混載して運送するものである。

被告沢木も右のような運送業者の一人であつて、同被告に貨物運送をときにあるいはしばしば委託していた海産物販売業者は被告会社を含め数名ないし一〇名を数えたが、委託者としての被告会社あるいはその他の特定のものと被告沢木との間での貨物運送に関する何らかの専属的あるいは継続的な契約関係はみられず、運送の都度個別的に運送契約が締結されていたものである。また、被告沢木と被告会社との契約高は、年間ほぼ二〇〇万円に達する被告沢木の全体契約高中、二〇ないし三〇万円にとどまるものであつた。一方、被告会社は、自動車運送業者に対するだけでも一か月一五〇ないし二〇〇万円の運賃を支払うこともあるほどの企業規模であつたから、被告沢木との契約高は被告会社にとつてはより小さい割合を占めるにすぎなかつた。

(2)  加害車の登録名義、自動車検査証名義などはいずれも被告沢木の個人名であつたが、その車体には商号として「紋別商店」との表示がなされている。一方、被告会社の商号は「寺尾商店」というのであり、被告沢木は被告会社代表者である寺尾正一と個人的に親しかつたことより、被告沢木はその一部である「」を「紋別商店」に冠して自己の商号とし、数年来これを加害車に表示してきたものである。しかし、右の事実のみからしては、客観的に被告沢木の営業が被告会社の営業の一部であるとの誤認混同を招くものとは認められないし、被告沢木、被告会社いずれの主観においても、そのことにより両者の営業を関連づけようとしていたものでもない。

(3)  本件事故当日には、被告沢木は被告会社から鮮魚を紋別市から小たる市まで運送することの委託を受け、他の海産物販売業者の貨物をも混載して、訴外橋本に加害車を運転させて右業務につかせたのであるが、その途上において本件事故が発生したものである。その際、被告会社の従業員が加害車に同乗してその指揮監督にあたるというようなことはなかつた。

以上の事実が認められ、その趣旨および形式よりいわゆる興信所の調査報告書であることの明らかな甲第二号証には右認定に反する事実の記載があるが、情報の出所の不明な同号証の記載をたやすく信用することはできず、また、右に認定の事実に照してもこれを採用することはできないところであるし、他には右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、被告会社が民法七一五条により本件事故により生じた損害を賠償する責任があるとするためには、被告会社と被告沢木あるいは訴外橋本との間に実質的な指揮監督関係、あるいは少くとも社会通念上指揮監督すべき関係があることを要するものと解されるところ、右認定事実によれば、被告沢木は被告会社に対しては全く独立の地位を持つ運送業者であつて、被告会社は被告沢木あるいは訴外橋本を指揮監督しうる立場には一般的にも本件事故時にもなく、また、被告沢木が運輸大臣の免許を受けることなく自動車運送事業を営むいわゆる「白ナンバー」の運送業者であるということの一事を以つて、かかる運送業者に貨物の運送を委託したものにそれを指揮監督すべき義務があるとすることはできないし、無免許運送業者に貨物の運送を委託したこと自体と本件事故の発生との間に相当因果関係があるものでもない。

従つて、被告会社は本件事故による損害賠償義務を負うものではない。

第二被告沢木に対する請求について

請求原因第一項(事故の発生)の事実については当事者間に争いはなく、同第二項(責任原因)につき、被告沢木が訴外橋本を使用し、同訴外人が同被告の業務を執行中にその原告主張のような過失によつて、本件事故を発生させたものであることも当事者間に争いがない。そうであるならば、被告沢木は民法七一五条により本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任があることは明らかである。

そして、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によりその所有の被害車を大破され、その修理代として一、四七三、八六三円を支出して同額の損害を被つたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

第三結論

よつて、原告の被告会社に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、また、被告沢木に対する右損害賠償金の内金一〇〇万円とこれに対する本件事故の日である昭和四六年六月五日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由があるのでこれを認むべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上敬一)

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